デイトナマラソンならぬデイトジャストマラソンをしたひと夏の思い出

ロレックス

腕時計、ああ、なんて甘美な響きだろう。
甘美だからこそ、人を惹きつけてやまない。
そんな嗜好品を追い求めた私の夏の思い出。

サブマリーナマラソンの完結はこちら

私は如何にしてシーマスターを止めてデイトジャストを愛するようになったか

ボンドウォッチへの初期衝動

私の最初の時計への憧れ、それは優秀な英国諜報員007の装着していたラグジュアリーかつギークなボンドウォッチであった。

私の一番好きなジェームスボンドは、ロジャームーア。
しかしロジャームーアのボンドウォッチはギミックに大きく振ったSEIKO製のものがほとんどであった。
腕時計としての所有欲が発生するボンドウォッチは、やはりショーンコネリーのサブマリーナ、そしてピアースブロスナンのシーマスターこの2つだろう。

もちろん、本当ならサブマリーナが欲しい。

しかし手が届かない。

逡巡と躊躇を重ね、並行輸入店(ビックカメラ)でピアースブロスナン仕様のブルーのシーマスタープロフェッショナル300を購入したのが、かれこれ3年前。

https://www.omegawatches.jp/ja/watch-omega-seamaster-diver-300m-omega-co-axial-master-chronometer-42-mm-21030422003001

これはマイナーチェンジ後の現行。

正調腕時計

しかし人間の欲とはかくも恐ろしい。
あんなに欲しくて買ったシーマスターなのに、また、湧き出る物欲。
欲しい。
サブマリーナが欲しい。

いや、正確に言えば欲しいのはサブマリーナではない。
欲しい。
ロレックスが欲しい。
シーマスターを手放す気は無いし、となればダイバーズウォッチはもう要らない。
スポーツモデルじゃなく、来るべき30代は「正調腕時計」で迎えるのだ。

考えが至ってからは答えが早い。
そう、デイトジャストしかない。
そう思った時には百貨店ロレックスコーナーへと歩き出していた。

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某百貨店にて

俺のデイトジャストはどこにある

そこに広がっていたのは、デイトジャストの海。
むしろデイトジャストとわずかなデイデイトしかない。

シーマスターを買うときに冷やかしに来た数年前まではスポーツモデルもたくさんあったのに…
そんな中一際輝いて見えたのは、デイトジャスト41のベゼルがフルーテッドで文字盤がダークロジウム、そしてブレスがジュビリーのものだ。

フルーテッドベゼルの高級感、ジュビリーブレスの輝き。
そして何よりも見るたびに表情を変えるダークロジウムの文字盤。

甘美だ。

しかし、当時の私には41mmは非常に大きく見えた。
だがダークロジウムは41mmにしかない。

そんな時、店員の方からこんなことを。

「次のバーゼルで新型ムーブ搭載のダークロジウムのデイトジャストが出ると思いますよ」

なんて金言を!
今すぐにでも欲しい衝動を抑え、私は一旦店を後にした。

俺のデイトジャストは未来にある

デイトジャストⅡの後継として、2017年バーゼルワールドで発表された、新ムーブメント3235を搭載したデイトジャスト41。

ロレックス デイトジャスト 41 ウォッチ:オイスタースチール&ホワイトゴールド - m126334-0014
ロレックスオフィシャルサイトでオイスタースチール&ホワイトゴールドのデイトジャスト41ウォッチを見る。モデル:m126334-0014

70時間のパワーリザーブが目玉のこの新ムーブメントは、デイトジャスト36にはこの頃はまだ搭載されていなかった。

また、ダークロジウム文字盤はこのデイトジャスト41だけの設定だった。

つまり、私が2019年のバーゼルワールドに期待したのは

  • デイトジャスト36に新型ムーブメントが搭載されること
  • デイトジャスト36にダークロジウム文字盤が設定されること

この2つが満たされれば、すぐに「買い」の予定で我慢をしてその時を待った。

裏切りのバーゼルワールド

https://www.rolex.com/ja/watches/new-watches/new-datejust-36.html

違う。

話が違う。

全くもって話が違った。

確かにデイトジャスト36に新ムーブメントは搭載された。
しかし、文字盤にダークロジウムが追加されることはなかった。

しばし悩んだのち、私は決めた。
あの日見たデイトジャスト41のダークロジウムを買うと。
41mmは本当に大きすぎるのか?
いや、そんなことはない。むしろちょうどいい。
なにより、ダークロジウムの色に完全に魅了されていた。
よし、買おう。

しかし、それが長い長い道のりの始まりとは当時の私は知る由もなかった。

某百貨店、ふたたび

絶望の淵に

買うものが決まってからは話は早い。

意気揚々とあのロレックスコーナーへ赴き、大きな声で「先日のデイトジャストをください」
そう言うだけで私の手には、あの憧れのデイトジャストが左手に巻かれるのだ。

しかしどうだろう。

無い。

どこにも無い。

あの、私のダークロジウムの文字盤輝くデイトジャストが無い。

「先日のデイトジャストは…?」

「非常に人気を頂いているモデルでして…
欲しいと思った時にはすぐに買わないと時すでに、というのはよくある話でございます…」

不確定情報に踊らされてしまった。
なんてことだ。
そんな絶望の淵に立たされていた時に、一筋の光明が件の店員氏から。

待てば海路の日和あり

「当店はですね、プロフェッショナルモデル以外は予約が可能でございます」

そんなことがあっていいのか。
しかし細かい条件があり、

  • 取り寄せではない
  • 店舗に望みのモデルが来れば優先的に購入できる権利
  • 全く同じモデルを先に予約している人がいるかは教えてくれない

つまり、予約をお願いして待っていればいつかは必ず手に入るということだ。
しかしこの制度はこの店舗が独自にやっていることで、いつ終わるか分からないらしく、むしろ今はもう終了している可能性が高いので悪しからず。

かくして、
デイトジャスト41/オイスタースチール/ダークロジウム/バーインデックス/フルーテッドベゼル/ジュビリーブレスレット
を予約してその日は帰ることに。
手に入るのは明日か、数年後か分からないが、来るべきその日を待つことにした。

デイトジャストマラソンの始まり

待てない、それが人の常

いったんは予約したものの、いつ来るか分からぬものを待つのは精神衛生上非常によろしくない。
来るとわかっていても、本当に来るのか。
いつ来るのか。
いや、来ないのでは?

そんな思いがぐるぐる去来する。
いつか分からぬものをただ口を開けて待っているだけで良いのか?
欲しい物は自らの足で、手で、掴み取らなくては!

そうして私は、予約をキープしたままデイトジャストマラソンを始めることにした。

デイトナマラソンは有名な行為だ。
並行輸入店では定価の倍以上の価格もザラなコスモグラフデイトナを、毎日毎日正規店の各店舗を回って手に入れようとする行為。
それがデイトナマラソン。

人気ゆえの行為であり、ランナーは後を絶たずゴールした者は羨望の眼差しを浴びる、デイトナマラソン。

翻って、デイトジャストマラソンなんて世界で私しかしていなかったのではないか。
正規店でも多数のデイトジャストがあるのだ。
そんな奇特な人間なかなかいない。

号砲が鳴る

しかし、店舗に並ぶデイトジャストをよく見てみてほしい。

そのほとんどが、コンビモデルである。

そして膨大なバリエーションとパターンを誇るデイトジャストで、店頭に並んでいるのはごく一部でしかないということに気づくだろう。

そして私の求めるモデルは膨大なデイトジャストの中でも人気モデルのようだ。

ということはどういうことか。
そう、無い。
どこに行っても無いのである。

「人気モデルでございます」
「最後に見たのは半年前に一本だけ…」

各店舗の店員氏は慇懃な言い方で断り続ける。

都市伝説

この手の行為には都市伝説がついて回る。

例えば

  • 店舗には常に在庫があるが店側が売る人間を見定めている
  • 外商ルートで先約があるのでなかなか回ってこない
  • 店舗への在庫補充のための宅配便が到着する夕方を狙え、などだ。

しかしこれらの都市伝説が本当であろうと嘘であろうと私には関係ない。
なぜなら私が欲しているのはデイトジャストだからだ。

バリエーションの少ないスポーツモデルなら在庫を抱えたりすることも可能だろう。
特に人気のサブマリーナやデイトナなど、特別なモデルなら尚更だ。
しかし、膨大なバリエーションを誇るデイトジャストでは、おそらく本当に各店舗には在庫がない。
そう考えるのが妥当だ。

というかこの手の都市伝説自体信憑性がないと私は考える。
あくまで直感だが。

マラソン中の頭の中

春の終わり頃から始めたデイトジャストマラソン。
夏の盛りを迎えても、予約とマラソン双方で手に入らないとなると、「この世にはもう私の求めるモデルはないのでは?」という思考にすら至ってくる。

こういう時によく直面する状況、思考はだいたい次の通り。

文字盤違いに出会う

なかなか希望のモデルに出会えないと
「ブルーの文字盤もかっこいいな、むしろいいな」
とか考えたり
「ローマン文字盤は希少ですし人気ですよ、バーインデックスのダークロジウムよりも」
なんて悪魔のささやきをされたりする。

こういう時は悩まず強い気持ちで断ろう。
なぜなら、後々の後悔の方が強いだろうからだ。

なんか違うな…と思っても、妥協案としての時計と初志貫徹の時計では後悔の度合いが違う。

だいたいは後から変えられるという事実

デイトジャストに関しては、文字盤とブレスレットは実は正規サポートとして変更が可能だ。
逆に言えば大きさ(36or41)とベゼル(フルーテッドorスムース)は変えられない。

オーバーホール時や任意のタイミングで、部品の実費と工賃を払うことによって変更ができる。
特に、オーバーホール時は工賃等はオーバーホール料金の中に組み込んでもらえるらしい。

しかしこれも店員氏に止められた。

曰く、「ブレスレットは10万単位の買い物ですし、本国のスイスに送らなければならないので数ヶ月の待ちが発生しますよ」と言うのだ。

それはいけない。

追加料金で初任給レベルの金額を取られて、まだ待つなんて考えられない。
やめておこう。

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突然のゴール

一本の電話でマラソンは終わる

そうして夏が終わろうとしていたある日、見慣れない番号から電話があった。
そう、最初に予約していた店舗から入荷の電話が来たのだ。

一度見ているはずなのに、自分のものとして手にすると感慨もひとしおであった。
同時に「終わった」という一抹の寂しさがあったことも事実である。

「こんなに入荷が遅いことも珍しいですよ」
店員氏はそう言って私の戦いを労ってくれた。

楽しく、そして辛いランナー生活

今回のマラソンは「デイトジャスト」かつ「予約ができた」という特殊な状況のものだった。
これが世の多くの人々が行なっているデイトナマラソンとなると話は違うだろう。

いつ終わるのか、いつ手に入るのか、暗中模索しているランナーの方には本当に頭が下がる。

最近の情報では日本ロレックスも購入制限をかけ始めたようだし、スポーツモデルも購入ハードルが多少は下がるのだろうか。
いや、そんなことないだろうな。
だって待っている人が多すぎるもの。

業は止まらぬ、どこまでも

やっと手に入った愛しのデイトジャスト。

しかし、手に入ってしまえば次が欲しくなるのが人の常。
業の深さ。

もう次は何にしようか、なんて物色してしまっている。

だけれど、この時間が一番楽しいのだということも私たちは知っている。

さて、次は何にしようかな。

それでは。

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